こんくそブログ

少しだけ人生を無駄づかいしたくなったら。

「修身教授録」―立派な大人になりたい、迷える若者へ

「この人みたいになりたいけれど、逆立ちしても追いつけない」そういう人のそばで仕事ができることは幸せだ。僕が最初に勤めた会社の上司がそうだった。先輩の女性デザイナーは「お師匠」と呼んでいたから、僕も心の中で師匠と呼んでいる。直接言ったことはない。なんか恥ずかしくてさ。

師匠は、デザイナーなのにデザイナーっぽくない人だ。作るものは素晴らしい。なのに、この人なにが面白くて生きてるんだろうと思うくらいの堅物。っていうと語弊があるので言い換えると、「自分というものを感情も含めて完全にコントロールしている」感じ。完璧超人か。

僕は当時、若くて独身で一人暮らし。自分探し(笑)の真っ最中。ブレブレだしいい加減だし自分に甘いしで、師匠に「君はもう少し『自分を律する』ことを覚えた方がいいね」と言われる始末だった。ある時「若いころ読んだ本のひとつ」として師匠が教えてくれたのが「森信三の本」だった。

その時聞いたタイトルは失念してしまったのだけど、こうして手元にあるのが「修身教授録」なんだから、きっとこれを教えてもらったに違いない。適当すぎる弟子で申し訳ございません。でもいつだったか「森信三の本買いました」って話したら師匠そんなことすっかり忘れてたからおあいこね!

大切なことを知る、思い出す、伝えるために

「修身教授録」は、哲学者でもある著者が師範学校でおこなった「修身」の授業を記録したものだ。教師を目指す17歳の生徒たちに向けて「どうして人間として生まれてきたことに感謝しなければならないか」に始まる、人生において誰もが一度は疑問に思うことや、人として身に付けなければならないことなどが、わかりやすい例を挙げながら語られている。今、こういうことを教えてもらえる機会なんてあるだろうか。

本自体はそこそこ分厚いけれど、面白い授業79回分!

「教授録」なんて小難しいし名前からしてつまらなそうだけど、授業一回ずつテーマが違うし、エッセイ集あるいは短編集と捉えてみたら、読んでみる気になれるかも。

当時の言葉遣いで丁寧な語り口。こんな授業が十代後半で受けられたことに驚きつつ、自分もタイムスリップして授業を受けているような感覚に陥る。こういう書き方していいかわからないけど、ライトノベル」として面白く読めると思うんだ(僕にとっては西尾維新の方がよっぽど難しい)。だから、若い人にはぜひ読んでみてほしい。二度とない自分の人生について考える、いいきっかけになると思う。

あと、若者だけじゃなく「もう一度学校で授業を受けたい」「もっとちゃんと勉強すればよかった」と学生時代を懐かしむ人にもおすすめ。持っていて損はない一冊。

 

さて、出来の悪い弟子はその後もなんとか見捨てられることなく、師匠が引退されるまで一緒に仕事をさせていただいた。なので、僕は勝手に「最後の弟子」のつもりでいる。まあその、最後の弟子が一番不出来であり、師匠の名を貶めることはあっても上げることなどありえないということにつきましては、師匠におかれましては全く不運としか言いようがないことでありまして、ええ、誠に申し訳ございません。

修身教授録 (致知選書)

修身教授録 (致知選書)